『それから』論

 

漱石と日本の近代(上) (新潮選書)

漱石と日本の近代(上) (新潮選書)

 
漱石と日本の近代(下) (新潮選書)

漱石と日本の近代(下) (新潮選書)

 

 

漱石は最初に近代小説を立ち上げた人のうちの一人であるから、(旧い書き方から新しい書き方へと移行する際の)どうしても「実験臭」がすると思っていたし(つまり、どうしても無理や粗がある。)、芥川の師匠であるから、古典の影響を無視するのはむしろ変だと思っていたが。
そうした基本的性格を持つと思しき漱石の、近代的側面からの批評ではなく、比較文学者による、古典的側面からの批評。

👆のことも👇で取り上げられている。 

漱石はどう読まれてきたか (新潮選書)

漱石はどう読まれてきたか (新潮選書)

 

『それから』と『曽根崎心中

徳兵衛は、実の叔父の家で丁稚奉公をしてきたが、誠実に働くことから信頼を得て娘(徳兵衛には従妹)と結婚させて店を持たせようとの話が出てきた。徳兵衛はお初がいるからと断ったが、徳兵衛が知らないうちに叔父が勝手に話を進め、徳兵衛の継母相手に結納金を入れるところまで済ませてしまう。なおも結婚を固辞する徳兵衛にとうとう叔父は怒りだし、勘当を言い渡した。その中身は商売などさせない、大阪から出て行け、付け払いで買った服の代金を7日以内に返せというものであった。徳兵衛はやっとのことで継母から結納金を取り返すが、それを叔父に返済する段になって、どうしても金が要るという友人・九平次から3日限りの約束でその金を貸してしまった。

曽根崎心中 - Wikipedia

 

人形浄瑠璃の演目はそれまでヤマトタケル伝説や義経物語など人々によく知られた伝説や伝承を描くものであったが、近松はここに同時代の心中事件という俗世の物語を持ち込みこれまでの歴史物(時代物)にたいして世話物といわれる新しいジャンルを創り上げたといわれている。

(同上 人形浄瑠璃史から見た『曽根崎心中』)

小谷野の漱石論では、「武士もの(歴史もの)」から「世話もの」(『それから』)へ移行し、遂には、女の内心に至る(『明暗』)との批評を与えているようである。上掲の目次から察する限りであるが。『明暗』が未完であることに興味が向く。私は、『坊ちゃん』の元ネタは、スサノオだと思っていた。
なお、結婚という経済共同体の意義と正義と謂う社会における実践上の公平(或いは衡平)ーとりわけ、取引の公平と経済的自由については、頭の隅に置いておくとよい。明治のころに法学上よく問題にされた自由は、やはり経済的自由に関してなのである(社会とはそういう関係であるはずであっただろうかーそれが、すなわち、世間か)。

そうすると、武士の倫理が気になるところである。
 👇漱石朱子学

漱石の近代日本

漱石の近代日本

 

 ただし、その朱子学は本当に朱子学
「上下天分の理」というマジック

【江戸時代】江戸幕府公認の学問 朱子学とは【林羅山】 - 日本史はストーリーで覚える!

知行合一」(陽明学)と内心

【江戸時代】朱子学に対立する学問 陽明学とは。【中江藤樹】 - 日本史はストーリーで覚える!

西郷は陽明学徒であって、戦前のエリート大学生に最も人気のあった偉人であったらしいが。

 👇武士とエゴイズム

 

ここで、伝統的な手法としては、「女」というトリックスターに喚起される自由な内心或いは自由な存在を巡って、朱子学者と陽明学者と英文学者(英倫理学者)を競わせることとなるはずだが。 

三酔人経綸問答 (岩波文庫)

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