今日のおめでとう

目をつぶっていたら晩飯を食いそびれてしまい、時間を持て余している。

牛乳と生クリームとレモンを買ってあるので、今から、チーズケーキ用に簡易チーズでも作ろうか迷っている。

ほんっとに簡単。手作りのクリームチーズ | クックパッド

すごいね。

深い、喪失感を味わっていた。

冒頭文がこれで、物議を醸した新井素子の文体とはこれかと納得する。

  • 深く、喪失感を味わっていた
  • 深い喪失感を味わっていた
  • 深い。喪失感を味わっていた。

のいずれでもなく、独特の「(意識の)流れ」を構成しているように思う。
これを冒頭に持ってくるところがセンスで、新井素子を評価できたのが星新一だけだったと聞くと、なるほどと思う。

「意識の流れ」は、ヴァージニア・ウルフで有名だけれど、『ピーターラビット』と比べたことがあった。アメリカの漫画における縦長目の表現の元祖を探って『ピーターラビット』に関心を持ったが、むしろ、童話ゆえの主体主語転倒が興味深かった。ここで「主体」とは作家に依る物語上の各場面から超越した語りにおける主語のことで、ここで「主語」とは物語上、各場面の文に付される行為主体のことである。つまり、作家の言葉なのか、物語の登場人物である「母親」の言葉なのか、区別がつかなくなる書き方のことで、新井素子の冒頭文でも、「深い」は、作家の観察であってなお、登場人物自身の感慨だろうが、「深い」が、その不分明さを以て、「喪失感を味わっていた」という客観と接合されている。このカンマは、並列的な叙事のマーキングなはずで、しかし、本来「同等(同じ形態)」でないことが、それを挟んで左右に置かれている。ならば、ひとつ「次元」が上がっているのだ。「文法上の誤り」を指摘するのは簡単かもしれないが、それを行き来する冒険に満ちている。


少し見方を変える。

someの意味は「いくつかの」じゃない!? じつは英語話者は “こんな気持ち” で some を使う

また-someと語尾につけることによって、「~の傾向がある、~の性質を持った」という意味にもなり、こちらも漠然とした特徴を表現しています。

someを使いこなそう!意味や使い方正しく説明できますか? | 極上の英語

handsome の語源 | 英語超学習法

こういったsomeの使い方に近いものを感じる。

A STRANGE MELANCHOLY pervades me to which I hesitate to give the grave and beautiful name of sorrow. The idea of sorrowhas always appealed to me, but now I am almost ashemed of its complete egoism. I have known boredom, regret, and occasionally remorese, but never sorrow. Today it envelopes me like a silken web , entervating and soft, and sets me apart from everybody else. 

https://www.amazon.com/Bonjour-Tristesse-Novel-Francoise-Sagan/dp/0061440795

Bonjour Tristesse”(『悲しみよこんにちは』)の冒頭文の英訳である。
参考に朝吹訳を
1-04③『悲しみよ こんにちは』フランソワーズ・サガン/朝吹登水子訳

この”Tristesse”がどの程度の意味を持っているのか。
機械翻訳だと、

  • tristesse↔sadness
  • sorrow↔chagrin↔grief↔deuil↔bereavement(↔deuil)

の2系統と成る(DeepL logo 翻訳ツール)。

さまざまな喪失感を表す sorrow に対して、grief の方は人の死を暗示します。

「悲しみ」を意味する grief と sorrow の違いとは? | Fragments

これは物語上肝と成るワードチョイスであると思う。

すでに『恋愛のディスクール』において、«Cette tristesse n'est pas une mélancolie»「この悲しみは鬱ではない」という文章に出会う

Roland Barthes, Journal de deuil (2009) | 國枝孝弘研究室

赤字強調は引用者。
サガンはむしろ、「この悲しみは「鬱」である」と言ったようだ。そしてそれは”sorrow”(喪失感)だと言った。そしてこれも或る種の「憑依物」だったわけだ。

要は、新井素子は、サガンの冒頭文を端的に表現する方法を見つけたのだと思う。
someの発見とカンマの発見である。

melancholy 意味と語源 | 語源英和辞典

メランコリーは、哲学用語として、憂鬱な精神状態と、それを引き起こす性格ないし身体的規定や存在論的規定を指す。メランコリーの概念は西洋思想の中で長い伝統をもち、その意味するところは世紀の変遷と共に大きく移り変わってきた。現代的意味におけるメランコリーは、ボードレールキルケゴールサルトルらによって概念化された。

メランコリー- Wikipedia