谷崎の女狂いを揶揄した中島

中島敦の作品は、もっと自由に読んでいいよね。

だって、そういう時代の人なんだから。

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山月記』は耽美派だろうと思っていて、その理由を中島の卒業論文に求めたが、文集を買わなければなかなか読めない。

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と思ったらちゃんと読まれた方がいらっしゃる。
やっぱり耽美派と考えて差し支えなかったらしい。
ただ、僕は、『山月記』は芥川が失敗した『藪の中』を完成させたものと思っているのだが、そういったことを言いだした人はまだいないのかもしれない(よく知らない)。

同時期の『文字禍』を読むと、これなどは至極単純で、要は"DHMO"の類だが、中島の文学者らしさは、ここに「半解」を忍ばせる。

DHMO - Wikipedia

文字を知った前後は、スフィンクスのなぞかけの通り、一生のうちの出来事に過ぎないが、それと別の出来事の間に因果関係は成立しない。さももっともらしく係る嘘をつき続けるのだが、ひとつだけ「それは関係がない」と暴露するのだ※。

※それが興味深いことに、文字を覚えたらそのせいで70歳過ぎてから性欲が落ちたというのだが、それはもちろん関係がないと暴露している。これがなにやら突拍子もなくて、何かと理由を付けては女に狂う文壇を中島も揶揄したかったのかとニヤリとするが、この根拠はとりたててない。ただ、中島が、耽美派の巨匠谷崎潤一郎を研究しただけである。

「腹蔵なく話す」との言葉があるが、話者を信頼させて、あたかも他の例示が真実であるかように装う。ここに中島の耽美性が成立する。すなわち、

〇命題(真/偽)と事実(在/不在)を転換する

〇中間命題を掲げる

〇話者を介在させる

文字を知ったことと頭がはげたことは中立だが、時系列上、交錯させることができる。
客観的事実と主観的事実が判断の倒錯を通じて入れ替わるのだ。
自分がそう信じること(に過ぎないこと)が真実となって語られ、それを「神秘」と名付ける。つまり神話体系(経験の理由付け)を近代文学として描写したのだ。

これが彼の、自然主義に対抗する、耽美主義であったようだ。
山月記』の場合だと、話者たる袁傪の李徴の詩に対する「半ば」の評価がそれで、それが合図となって、袁傪(の主観)と李徴(の「主張」という事実)が交錯する。この前後の倒錯の真相が神秘と謂う『藪の中』なのである。
これが中島の発明であったのである。
なぜ、袁傪が唐突にこのように腐すのか、文脈上の意図として表現される作者にとっての必然性を読みかねていたが、トリックスターとして機能していたらしい。倒錯の合図だったのだ(これが「倒錯」を帰結するのは、それを踏まえてー他者である李徴が本来踏まえようもないはずのことだが、袁傪の主観と李徴の客観が交錯することで達成するー後の詩の評価がなされないことでわかる。
ここに文字禍と同じ主題が導入されているのだが、しかし一方の『山月記』では『禍』ではないかもしれない。『文字禍』と『山月記』はセットで構想されたと考えると読みやすくなる。神話体系の近代的な昇華である)。

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石井さんと言う方が結構研究されていて、読むことができないが、所謂「夢落ち」を指摘しているのかもしれない。

山月記』もこの話型を踏襲している。

芥川の失敗は、客観(どうし)の入れ替わりを企図したことだが、山月記は話者を通じて主観を導入することで、(芥川の)矛盾を克服した。
そう思うから、そうなのだ。
この説得力に勝るものはない。もし客観的事実と違っても、それがどうしたというのだ。

だから、『山月記』では、もはや読者によって犯人捜しの類は行われない。

ところが残念なことに、それが耽美主義に基づいているとは、研究者でもなければ気づかれないのだ。それは勿体ないことである。

 

読もうか迷っている。

「愛している」と公然と、、、言いあうのは男同士だったのか、を夏目漱石正岡子規とのやりとりで考えたことがあったけれど (一方で、それが男女間に変わったのは、武者小路からだったか)

「思いは、ひとつ、窓前花」 これは花を愛でるような男同士の感情をいうのだろう。

太宰治を読む〔242〕 窓前花その2 : メゾフォルテからあなたへ

夏目から芥川、太宰に受け継がれたか。

大礼服着たる衣紋竹えもんだけ、すでに枯木、刺さば、あ、と一声の叫びも無く、そのままに、かさと倒れ、失せむ。空なる花。

太宰治 HUMAN LOST

やはり太宰は太宰だった。しっかり芥川賞の愚痴を入れている。
そのために百万言を費やすのが太宰だ。ダメ人間の見本のような奴だ。
dic.pixiv.net

文豪ストレイドッグス中原中也×中島敦のBLカップリング。

中敦 (なかあつ)とは【ピクシブ百科事典】

[参考]

兵隊さんの喇叭らっぱも朝夕聞えてまいります。

太宰治 誰も知らぬ