法哲学者H.L.A.ハートの生涯

 

心理分析と並んで叙述を支えるのは、エリート社会をめぐる知識社会学的な説明だ。オックスフォード大学や哲学者コミュニティーは、自分の学問分野を支配したいとの欲望が渦巻く男社会だった。ハートはこの社会のインサイダーとなるが、最後までアウトサイダー意識が消えなかった。自分は「完全には男性的ではない」。「女性的側面」の抑圧こそが自らのパニックの一因だろう。ジェンダー法学者でもある著者レイシーは、ハートのこうした自己分析を見逃さなかった。     

     ◇

Nicola Lacey 英ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス教授(刑法・法理論・ジェンダー法学)。

 

「法哲学者H.L.A.ハートの生涯(上・下)」書評 厳密な分析の根底に不安と抑圧|好書好日