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(P7,夏目漱石先生評釈Othello - 国立国会図書館デジタルコレクション)
ここで漱石は、個性 individuality を構成する①性格 character 、②人格 personality 、③気質 temperament の3要素のうち、①性格 character を Shylock との比較で取り上げている。
一方で、漱石は、「彼の惡事には justification がある。」と述べる。
justificationとは、
法と時間の問題であり、また、弁解することである。
「人格」は家庭環境や生まれ育った地域・国など、外界との関わりの中で形成されるもの、つまりは『何かとの繋がりの中で構築される人間性』を表します。
したがって、②人格 personality から発せられる言葉で擬えられることだと考えると、
イアーゴーの言葉がマグレブ商人の言葉かどうかが一つの鍵となると思う。
ならば、まずは、マグレブ商人の言葉を拾い上げてみればよいではないか。
本当にイアーゴーは悪人だったのか?
すなわち、イアーゴーの文化的背景である。
以下のページ数は、『比較歴史制度分析(叢書 制度を考える)』(アブナー・グライフ著,岡崎哲二/神取道宏監訳,有本 寛/尾川 僚/後藤 英明/結城 武延訳,NTT出版,2009)のもの
- 私に生じるすべての利益は,あなたのふところから来ます(PP.54-55)
- 人は人なしでは活動できない(P.55)
- 私の事業を的確に遂行したしたとき,私はあなたに商品を送ることとしよう(P.58)
- 激しい非難に満ちた債権者たちの手紙があらゆる人々に届いていた(P.59)
- 私の評判(あるいは名誉)は地に堕ちてゆく(P.59)
- たった10ディナールの利益をあなたから受け取ることさえ,あなたは認めなかった.私から10倍の儲けを得たにもかかわらず(P.59)
- 私が利益の4分の1をとるべきだったのではありませんか?(P.59)
- 私に必要なのは,あなたの高い地位の恩恵に属することと,便宜を図っていただくことです(P.59)
- 私がお送りするものの見返りとして,あなたの高い地位を利用させていただくことが私の願いです(P.59)
- われわれは幸運であった・・・・・・名誉(を失うことを彼らが恐れること)なくしては・・・・・・われわれは何も受け取ることができなかっただろう(P.59)
- あなたは,彼がわれわれ(マグリブ貿易商)の代表で在り,(したがってもめ事が)われわれ全員を困惑させることを知っているはずです(P.60)
- 自分が商人の指示に反する行いをしたと,他の人たちに思われたくないからだ(P.60)
- (価格が)上がることを期待して,出帆の日が近づくまで(胡椒を)そのままにしていました.しかし,景気はさらに悪化しました.そこで,私は不信を買うことを恐れ,あなたの胡椒をスペインの商人に133(クォーターディナール)で売りました.・・・・・・船の出帆の前夜のことでしたが・・・・・・(買い手が乗った)船が到着し(そのため)・・・・・・胡椒の需要が上がりました・・・・・・おかげで,(胡椒は)140ー142で売ることができました.自分の胡椒を140ー142で売るための担保がとれたのです.しかし兄弟よ,私はもうけを独り占めしたくはありませんでした.ですから,私は両方の売り上げをすべてあなたとの提携事業に入金しておきました(P.60)
- あなたは非常に忙しい人だから(P.60)
- あなた自身で私の勘定を清算し,残高を私の義理の兄弟に渡してください(P.60)
- 良心に従った判断に基づいて,どのように対処していただいても結構です(P.61)
- 代理人は,通信(手段の限界)と取引の必要から,余儀なくされた行動をとったのであり、(あなたの望んだこと)は商人法(別の訳し方をするならば,「貿易の慣習」)に反している(P.62)
- 激怒した(P.62)
- 商人にふさわしからぬ行動(をとった)(P.62)
- もし(ある者が)別の者と事業提携を結ぶにあたって何の取り決めをしなかった場合には,彼らが取引する商品にかかわる土地の,現行の慣習から逸脱するべきではない(P.62)
- 商人の慣習(P.62)
- 頼まれてもいないことをやったと,人に噂される(ことを望まないからだ)(P.62)
- (代理人が誠実であり,)「(不正について)告発されるべきではない」(P.63)
※商人たちは代理人が誠実であると信ずる時でも,集団的懲罰に参加する傾向があった - われわれ,マグリブ人,旅人たち(商人たち)(P.68)
- もし私が周囲の人々のいうことを聞いていたならば,私はあなたと提携を結ぶことはなかったでしょう(P.71)
マグリブ貿易商の分析は,フスタート(カイロ旧市街)で見つかった,ゲニーザ(ヘブライ語で「倉庫」)として知られる歴史的資料に基づいている.これは数千もの契約書,価格表,商人の手紙,帳簿,そして11世紀の地中海イスラーム世界における貿易を映し出すその他の文書を含んでいる.2)
2)ゲニーザの入門的解説としては,Goitein(1967,序文)を参照
P.53
さて、どうだろう。
And, throwing but shows of service on their lords,
Do well thrive by them and when they have lined their coats
Do themselves homage: these fellows have some soul;
And such a one do I profess myself.
主人には忠臣を装い、
その威をかりて潤い、私腹を肥やし
すべては自分のためにするのだ。そんな連中は一味違う。
かく言うおれもその一人。Do well thrive by them = thrive by their influence. 主人の影響下で栄える(潤おう)。
lined their coats 「私腹を肥やした」Cf. line one's pocket.
Do themselves homage i.e. pay themselves their due, serve their own interests.
soul= intellectual or spiritual power.
かろうじて
8.「私に必要なのは,あなたの高い地位の恩恵に属することと,便宜を図っていただくことです」(P.59)
9.「私がお送りするものの見返りとして,あなたの高い地位を利用させていただくことが私の願いです」(P.59)
この2文がかすめるが。
それだけで決めにくい。