青年   まあ、 アダム の こと は、 どう でも いい でしょ う。 だが、 シェイクスピア の 創造 って こと に なる と、 これ は 

老人   おっ と 待っ た、 それ は シェイクスピア の 模造 って こと だ な。 創造 なんて、 シェイクスピア は なんにも し ちゃ い ない。 ただ 実に 正確 に 観察 し て、 見事 に 描き出し た って だけ だ よ。 つまり、 神 が 創造 し た 人間 群 を、 ただ 実に 正確 に 写し た って だけの こと で、 自分 で 創り出し た 人間 なんて 一人 として いや し ない。 そんな こと やろ う と し た なんて、 彼 の ため にも いわ ない こと だ よ。 創造 なんて、 シェイクスピア にも でき なかっ た。 彼 も また 機械 にしか すぎ なかっ た んで、 機械 に 創造 なんか できる わけ が ない。

青年   じゃ、 どこ が 偉い ん です、 彼 の 場合?

老人   なに、 こう だ よ。 彼 は ただ、 君 や わし の よう な、 ただ の 機械鋸 じゃァ なかっ た。 いうなれば、 ゴブラン織 の 織機 だっ た ん だ な。 いろんな 糸 や 色 が 外 から 彼 に やってくる。 つまり、 外 からの 力、 暗示、 そして 経験 そう、 読書、 観劇、 出演、 借り ものの 思想 等々 と、 すべて そう だ が、 それら が 彼 の 心 に 数々 の 図案 を つくり上げ、 それ が はずみ で、 あの 驚 す べき 複雑 な 機械 が 始動 し だし た。 あと は ただ 自動的 に だ が、 あの 今日 も なお 世界 の 驚異 で ある 絢爛 豪華 の タペストリー を 織り 出し た と いう に すぎ ん。 かりに もし シェイクスピア が だ よ、 大洋 の 真中 の 無人 不毛 の 岩礁 にでも 生れ、 そして 育っ た と し て み た まえ、 偉大 な 彼 の 知力 も、 一切 外 からの 材料 は あたえ られ ず、 したがって、 何一つ 創り出す なんて こと は でき なかっ たろ う な。 これ といった なん の 外 からの 力 教育 も、 練成 も、 促進 も、 霊感 も、 すべて なかっ た と すれ ば、 そして また 創造 する こと も でき ない と なれ ば、 いくら シェイクスピア だって 何 も 産み 出す こと なんか でき なかっ たろ う な。 トルコ で なら ば、 何 かは 創り出せ た かも しれ ん つまり、 トルコ での 影響、 関係、 訓練 の 最高 ギリギリ の 水準 という かぎり ではね。 じゃ、 フランス だっ たら、 どう なる?   もっと いい もの は 創れ たろ う な フランス での 影響、 教育教育 が あたえる 最高 ギリギリ の 水準 という 点 ではね。 ところが、 彼 の 場合 は イギリス だっ た から、 あの 国 の もつ 理想、 影響、 教育 から くる 外 からの もの に 助け られ て、 考え られる かぎり 最高 の 水準 にまで 到達 でき た。 君 や わし は 機械鋸 に すぎん の だ。 機械鋸 なりに、 できる もの だけを 創り出す より ほか ない ん だ。 もちろん、 努力 は し なけりゃ いけ ない よ。 だが、 なんにも 考え ぬ 無知 な 連中 から、 いくら ゴブラン織 を 織り 出さなかったって非難されたところで、そんなことは毛頭意に介することはない。

 

マーク・トウェイン; 中野 好夫 (1973-06-18). 人間とは何か (岩波文庫) (Kindle の位置No.271-305). 株式会社 岩波書店. Kindle 版.