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なにやら、悲しくて仕方がなかった。しかし、彼女に飲み物を買ってやれなかったくらいで、成人した男が泣き出すのはおかしい。私は自動販売機の前でわけもわからず涙を流し続け、やがてひとつの仮説に辿りついた。それはもしかしたら私が、いつからなのかは見当もつかないけれど、ずっと前から悲しかったのではないかという仮説だ。だが、これも正しくないように思えた。私には灯がいた。灯がまだいなかったときは麻衣子がいたし、(中略)みんな私によくしてくれた。その上、私は自分が稼いだわけではない金で私立のいい大学に通い、筋肉の鎧に覆われた健康な肉体を持っていた。悲しむ理由がなかった。悲しむ理由がないということはつまり、悲しくなどないということだ。 『破局』より

あ、わかった。

 なにやら悲しくて仕方なかった

それは

 なにしろ、悲しくて仕方なかった

じゃないかね。次の文、

 ただ、彼女に飲み物を買ってやれなかったくらいで、成人した男が泣き出すのはおかしい

前の文の述部『悲しくて仕方がなかった』と後の文の述部『泣き出すのはおかしい』を比較して逆接で接続したのだろうが、前の文と後ろの文が同時に(完全に)成り立たないわけではなく、一部留保しているだけなので、「ただ」だろう。
これは、ミソジニーっぽいかな。ジェンダーだけれど、男女間の秩序意識がある。
それはいいとして。
この主人公の内在しているロジックと表現とが全体的にちぐはぐな印象を受ける。
『悲しむ理由などなかった』なら、その前の『その上』は要らないだろう。これは加算することに意義を見出しているのであって、存在することに意義を見出しているのではない。理由を挙げるだけなら、羅列が良い。『その上』を使うのであれば、

 悲しむにしては十分満たされていた

くらいだろうか。なんでこうなるのかな?と思ったら、やはり述語の「ない」が包括的な言葉だからだろう。ならばターゲットを明らかにして、

 悲しむ理由が見つからなかった
 悲しむ理由が見当たらなかった

くらいではなかろうか。結局最後の一文『悲しむ理由がないということはつまり、悲しくなどないということだ』を導くために無理な論証を重ねているだけだろう。そこに飛躍があるので、評者が選評し辛かったのではないかと思う。
コンビニ人間』のように、機械的な人間の生きづらさを描くのであれば、例えば、反転チューリングテストなどどうだろう。

チューリング・テスト
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

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