歴史観の伝統

 

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「すなわち」の後に、特に理系の研究室に於ける教授による就職あっせんと戦前の軍人社会と学閥形成(ネーターボーイズ)に触れようかなと思ったのだけれど。

エミー・ネーター - Wikipedia

ネーターが超充実している。

ネーターにしたところで、ヒルベルトに「見出された」のであるし、ネーターも若い数学者を「見出して」、実は、気に入らない学生を排除するのもいとわなかったらしい。
特に、学閥形成については歴史上見落とされることが多くて、美濃部達吉を考えるにしても、上に一木喜徳郎、横に上杉慎吉、もうひとつ向こうに高木貞治が居ると思うと、見通しがよくなる。美濃部達吉は「末は博士か大臣か」という意味での明治の申し子なんだけれど、明治の限界を如実に見せているという稀有な存在。貧乏生まれが、一高から帝大へ進み、特待生、特待生のトップトップと成績は申し分ないのに、社会へ出ると、実態として扱いが悪い。ちょっとかわいそうなんだよな。
高木貞治なんて、或る意味で好き勝手やれて、ずいぶんと恵まれている。言わずと知れた重鎮、菊池大麓にイギリス行きを「命じられて」いるのに、たぶん藤沢利喜太郎が居たからだろうけれど、ドイツ行きをきめちゃって、ドイツに行ったら行ったで、好きなように転学するというね。複数の留学先を持つのは普通だったが、行きたいところへ行ってやりたいことができるのが素晴らしい。つまり、美濃部は希望がかなわなかったから。帰国してからも同じで、希望の公法担当がすぐにはかなわずに、とりあえず空の担当だった比較法制度を受け持って評判がよかったらしく、師匠の一木の後を受けて横滑りした(これは留学とも関係しているけれど。つまり、本来、この時代の留学は、「遊学」と違って、自由じゃない。けれど、遊学したら、その後も「自由」が利くってのも、何か不思議だ)。このひと、ずっとこうなんだよね。呼ばれて、格好だけはつくんだけれど、「なんでなの」というか。戦後のGHQからもそんな扱いだからね。反対に不思議な人だよね。ついには鬱屈しちゃって。「俺もなぁ本当は」って。この人を見ていると、時代の空気を感じる。

👇美濃部達吉の履歴書。3年留学に行っていた。目的は比較法制度の研究。

美濃部達吉 - Wikipedia
枢密院文書・枢密院高等官履歴書
M27美濃部達吉,帝国大学入学~S22枢密院廃庁により退官

だって、もうちょっと後には、ケルゼンに師事する人も何人かいたんだし、この人が、希望どおりイェリネックのもとで、都合3年ほど研究していたら、日本ってどうなっていたんだろうって想像するよね。

そういうことじゃない。

In the judgment of the most competent living mathematicians, Fräulein Noether was the most significant creative mathematical genius thus far produced since the higher education of women began. In the realm of algebra, in which the most gifted mathematicians have been busy for centuries, she discovered methods which have proved of enormous importance in the development of the present-day younger generation of mathematicians.

(日本語訳)最も有能な生きている数学者たちの判断では、フロイライン・ネーター (Fräulein Noether) は女性の高度な教育が始まって以来こんなにもたくさん生産した最も重要な創造的数学の天才であった。代数学という分野は、最も天賦の才のある数学者が数世紀の間忙しいであるが、そこで彼女は、今日の若い数学者世代の発展において莫大な重要性を証明した手法を発見した。

代数学の世界ではもっとも才能のある数学者たちが数世紀の間精力的であったが、彼女は、若い世代の数学者たちから生じた発展の内にあった、認識を新たにする、本質的性格を解明する手法を見出した。

relm-gifted-century-discover-enormous-importance-development-present-generation

すごく意味深だ。日本語に訳すと、神秘性が薄れる。
長い揺籃期を終わらせた、彼女こそ母であり、クイーンだって言っている
"the present-day younger generation of mathematicians"はネーター・ボーイズのことだろう。おそらくネーター・ボーイズの研究に不完全ながら代数学を革新する発展的内容が含まれていた、生まれてきていたということだろう。

こういう言葉が素直に出るようになると、個人の才能云々もあるけれど、「英雄伝」に偏らずに済むかなぁと期待する。

代数学の歴史 −アル・クワリズミからエミー・ネーターへ− | 株式会社 現代数学社

これ中学のときに知っていれば読みたかったなぁ。