廃校していた12

上杉の天皇主権説とは何だったのかを、婦人の解放から、少し解説を加えてみた。

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実際上ではなく、理論上の展開なので、当時に在っては、自由民権運動より「過激」であるかもしれない。特に、女性の大学教育の自由における「男女の機会均等」にはついては、その後の実際の展開を見ても、吉野作造のもたついた主張を見ても、特筆すべきであると思う。良妻賢母を云うのであるが、それが目的ではなく、どうもあくまで表現論であって、家政教育には反対し※1職業訓練についても望ましくはない(本音では反対である)が、女性の利益に鑑みて留保を付ける。つまり、知識の獲得に関しては、男女を差別するいっさい条件を付すべきではない※2と言って徹底するのだ。

※1 興味深いのは、花嫁教育である教養教育など、男の性欲を満たすだけと喝破する。ここらへんは社会主義の影響だろうか、それとも、キリスト教の影響だろうか。よくわからないが、ここまで、あけすけに「本音」を言うのは天晴である。上杉は良妻賢母を主張するが、あくまで結婚の表現論であって、(男の)道具論ではないのだ。

※2 ただし、これが実際の制度において、「女学校」「女子大学」というものを設けることは妨げない、或いは、設けるべきと考えたかは、不明である。そこらへんが「観念的」と言われた所以かもしれない。大学において女性を「聴講生」資格にとどめるべきではないとは考えたようだ。

こういった調子であるから、女性の職業に関しては、なにしろ結婚に天分があるのであって、派生的に、「妻の代わりとして、母の代わりとして」福祉業界が推奨されることが、先行研究から「勉強」され、また社会に於いて「観察」されるにとどまるようで、大学教授に成ったらだめなのかどうかは、はっきりしない(大学進学が「あり」なのであるから高尚な職業に就くことも「あり」と匂わせるだけである)。
職業訓練校への「一考の余地」を考えれば、大学教授に就くことにも「一考の余地」があるようにも考えられるし、ただし、「望ましくはない」とも考えられる。要は、ここらへんは、アドホックである。

 

どうも、喧嘩ばっかりしていても幸せにはなれんよ、ということが根底にあるようで、あとはせいぜい、男の真似してタバコを吸うな、くらいであるが、これは男子中学生にも言われていることである。すなわち、男女中学生4禁「禁酒」「禁煙」「禁エロ本」「禁暴力(過激な社会運動、社会扇動)」である。どれだけ野蛮だったのか。

 

結果として、上杉は「上手いこと言った」ようで、明快にして深淵な、保守的にして過激な、単純にして広範な議論が受けて、各論者に火をつけ、「婦人問題」は盛り上がったようである。啓蒙的な社会運動指導者である上杉の本願はこれで成就しただろうか。


上野千鶴子が聞いたら、どう思うのか。

これが現代の社会的要請に応えられるほどの理論的完成度を持っているとは考えられないが(対抗的機序を持つことが社会問題をくくり出すには理論上有効であるし、また、記号論を発展させたモデルを用いないと実効的ではないと思える。要は、社会は、より複雑になったのだ。)、当時の社会状況からは、漸進的な進歩主義だったのだろう。「漸進的」であるがゆえに保守的で、進歩主義であるがゆえに「過激」である。

 

何だか、明言しているが、主張はしていないという社会技術が発達しているのか、問題の質から仮託的な話芸なのか、どうにも読み進めにくいが、たぶん、そういうことである。

なぜ、そう思ったかと言うと、今しがた、ジジババの農作業の分担で愚痴るツイートを見たからだ。ジジが「旦那商売」に徹して、ババが苦労するという話である。
これなどは、上杉ならば、「(ババを)弱い者いじめをするな」とモラルに帰着させそうだからである。ホーリズムたる所以である。

青山学院出身のクリスチャンである山本七平のこの有名な著作に、西郷隆盛の話が出てくる。西郷隆盛が農老婦に頭を下げただったか、手をついただったか、そういった倫理性の高さを『氷川清話』で勝海舟が評価していたのだったか、忘れたが。

上杉が西郷を評価したかどうかは知らないが、倫理的に解決するような気がする(上杉は、朱子学から脱朱子学・反朱子学を目指したことが考えられるが、陽明学に傾倒するとは考えにくく、行動主義であったかどうかまでは、実は疑問である。いや知らない。要は、「観念主義者」で「啓蒙主義者」だったから、よく門人を世話して「言葉の上では」過激であったが、というところである。加賀、もともとは、大聖寺であるが、「おっとり刀」でなかったか―実際の戦場では果敢だったが、初動の鈍さと主張の弱さが、薩長の後塵を拝した理由のひとつであるし、謙虚を美徳として「裏方」をよしとするような気がする)。

倫理感情の限界は、単純すぎることにある。