へー。勉強になった。ありがとうございます。

ヴィトゲンシュタインの文脈ではないけれど、ドイツ語を作った哲学者とも言えるマルティン・ルターは『キリスト者の自由について』を著した。
破門の危機に在った当時、教皇庁との和解工作のために、ラテン語版も作って送ったそうだが、より厳密であるとされた伝統あるラテン語から解放されたドイツ語版が真骨頂であるようだ。

 例をあげて示そう。タイトルにもあり、著作の中心概念ともいえる「自由」と訳される言葉は、ラテン語版とドイツ語版とでは、使われている単語が異なる。ラテン語版では「リベルタス( libertas)」が、ドイツ語版では「フライハイト( freiheit)」がそれぞれ使われている。これは英語でいえば、ラテン語版では「リバティ( liberty)」が、ドイツ語版では「 フリー ダム( freedom)」が使われていることに相当する。

  ラテン語の「リベルタス」という単語には、古代ギリシア以来の「人間の意志の自由」という意味が含まれている。法的指向が強いローマで成立した単語であるだけに、おもに個人の権利をさしている。他方、ドイツ語の「 フライハイト」という単語には、「共同体に所属する意識とそれへの愛と忠誠」という意味が含まれ、古代ゲルマンの部族意識が宿っている。ルターは、個人の権利をさすラテン語の「 リベルタス」では、「 自由」という概念の本質は表しきれないと考えた。そこで、ドイツ語の「フライトハイト」にある「共同体への愛と忠誠」という意味を基礎にして、『キリスト者の自由について』を構想したと考えられる。

徳善 義和. マルティン・ルター-ことばに生きた改革者 (岩波新書) (pp.151-152). 株式会社 岩波書店. Kindle 版.