というわけで、太宰治の『走れメロス』を再読しているが、さっぱりわからない。

なんだ、これ。

日本の小説の神髄は太宰にあるんじゃないか、と思えるくらいにわけがわからない。
なんだこれ、と思ったら、太宰がふざけたことを言ったのが、元ネタらしい。

「待つ身が辛いかね。待たせる身が辛いかね。」

走れメロス - Wikipedia

ふざけたことを言うな。
だったら、太宰が人質になって、一筆書いて檀を井伏のもとへ遣ればよい。
たぶん、太宰は激怒する。
太宰に「友情」などないと断言する。

自己犠牲ができるほどの友達関係の中に存在する。

友情 - Wikipedia

相手を信じて待ってこそ、この場合、友情である。太宰が身を賭して待たなければ「友情」は成立していないではないか。
要は、太宰の口説なのである(これが重要である)。
この程度の病的なハナシである。何かが崩壊した酒飲みは野口英世もそうだ。
忘れてならないのはこの二人が「おかしい」ということだ。
これが中学生の国語の問題に頻出しているのが、すごく興味深い。
「友情」とは何かを考えさせるためだ。 

 

こういう研究は素晴らしい。これを読んだ方がいいんじゃないかと思える。

 

問7 下線部⑥「王様は、人を殺します。」について、なぜ王様は人を殺すのか。その理由にあたる一文 を抜き出し、句読点を含めてはじめの五字を答えなさい。


平成 24 年 10 月入校 大阪府立高等職業技術専門校 入校選考試験問題https://www.pref.osaka.lg.jp/attach/538/00141683/tyuusotsu_mondai_0910.pdf

👆受験資格が『中学卒業程度』であるから、中学生を対象とした試験相当と考えて差し支えないだろうか。そして確かに👇に答えがある。 

現役教員が走れメロスの予想問題&設問例を紹介します | Education LABO

この問題に『走れメロス』の特徴とされるテンポの良さが表れているのだろうなぁと思う。夏目、芥川の『羅生門』ではきわめてロジカルに問われた読解が、少し趣を変えたような気がする。
そして、👇である。

(3)「風体なんかどうでもいい」とあるがなぜどうでもいいとメロスが思ったのかプライドという語を使って30字以内で答えなさい

走れメロステスト問題解答 -今日学年末がありました走れメロスの問題が- 日本語 | 教えて!goo

「 ?」
なぜか。 

風態なんかは、どうでもいい。

太宰治 走れメロス

 「風体」と「風態」は同じだろうか?

風態(ふうてい)の品詞名と意味を教えてください

風態(ふうてい)の品詞名と意味を教えてください - 「風態」でしたら、... - Yahoo!知恵袋

はて、どこまで信じられるだろう。自分にはわからない。
ただ、

路行く人を押しのけ、跳はねとばし、メロスは黒い風のように走った。野原で酒宴の、その宴席のまっただ中を駈け抜け、酒宴の人たちを仰天させ、犬を蹴けとばし、小川を飛び越え、少しずつ沈んでゆく太陽の、十倍も早く走った。一団の旅人と颯さっとすれちがった瞬間、不吉な会話を小耳にはさんだ。「いまごろは、あの男も、磔にかかっているよ。」ああ、その男、その男のために私は、いまこんなに走っているのだ。その男を死なせてはならない。急げ、メロス。おくれてはならぬ。愛と誠の力を、いまこそ知らせてやるがよい。風態なんかは、どうでもいい。メロスは、いまは、ほとんど全裸体であった。

太宰治 走れメロス

なお、赤字強調は引用者。 
それに意味の違いがあるなら、その文の前を指しているのか、後を指しているのか、それらを繋ぐことで意味を醸成しているのか。
これは最後の文をもたらす。

「メロス、君は、まっぱだかじゃないか。早くそのマントを着るがいい。この可愛い娘さんは、メロスの裸体を、皆に見られるのが、たまらなく口惜しいのだ。」
 勇者は、ひどく赤面した。

太宰治 走れメロス

 👇「友情」らしい

「いや、まだ陽は沈まぬ。」メロスは胸の張り裂ける思いで、赤く大きい夕陽ばかりを見つめていた。

ああ、できる事なら私の胸を截たち割って、真紅の心臓をお目に掛けたい。愛と信実の血液だけで動いているこの心臓を見せてやりたい。

👇「希望」らしい

斜陽は赤い光を、樹々の葉に投じ、葉も枝も燃えるばかりに輝いている。 

塔楼は、夕陽を受けてきらきら光っている。

👇『嬉しい』らしい

妹は頬をあからめた。

暴君ディオニスは、群衆の背後から二人の様を、まじまじと見つめていたが、やがて静かに二人に近づき、顔をあからめて、こう言った。

👇展開らしい

メロスは、また、よろよろと歩き出し、家へ帰って神々の祭壇を飾り、祝宴の席を調え、間もなく床に倒れ伏し、呼吸もせぬくらいの深い眠りに落ちてしまった。

ぜいぜい荒い呼吸をしながら峠をのぼり、のぼり切って、ほっとした時、突然、目の前に一隊の山賊が躍り出た。

呼吸も出来ず、二度、三度、口から血が噴き出た。

👇それによるコントラストらしい

暴君は落着いて呟つぶやき、ほっと溜息ためいきをついた。

ほうと長い溜息が出て、夢から覚めたような気がした

 

さて、「口惜しい」が「残念」だとするとその対義語は「歓喜」らしい。 

彼らは「自分の地位にふさわしくない者や、手におえないばか者」の目には見えない、不思議な布地をつくることができるという。

裸の王様 - Wikipedia

メロスのプライドとは何だったのだろう。赤より深い赤に包まれる意味は。
結局、 太宰が言いたかったのは何なのか。

私の命なぞは、問題ではない。死んでお詫び、などと気のいい事は言って居られぬ。私は、信頼に報いなければならぬ。いまはただその一事だ。走れ! メロス。

なるほど。太宰は「自分が残って人質になるのは嫌だ」と言いたかったらしい。
井伏が裏切って死んでは元も子もなかったのである。
大切なのは友人を待って死ぬことではなく、待たせて「死ぬ思い」をすることだったらしい。
やはり、ふざけた男だ。
しかし、だから、日本の小説の真骨頂である。