壮士と青年

試し読みでしか読んでいないが、面白かった。

例えば、「青年」について、明治期における(特に地方の)「民主主義」の普及と農村の「青年教育」から、考えるのだけれど、そもそも「青春」という言葉があって、「青年」という言葉がなかったのか?

このとき、この本が指摘する「訳語」とは、適当に割愛されているが、YMCA(東京基督教徒青年会)の 創立者で初代会長をつとめた小崎弘道の主張のことだろう。

(「青年」という言葉自体、「若い男」の単なる別名、「ヤングマン」の単なる訳語ではなく、明治後期に一世を風靡した流行語です)。「青年」は「壮士」の対抗馬として浮上した世代像です。「壮士」とは明治一〇年代の自由民権運動時代に世を賑わした若者像で、その精神は「悲憤慷慨」。
斎藤美奈子(2018-11-20).日本の同時代小説(岩波新書)
(Kindleの位置No.180-189).株式会社岩波書店.Kindle版.

この指摘は興味深くて、「壮士」との比較で言うならば、この概念は「壮」+「士」なところ、「青年」は「青」+「年」となった、二重の比較が見られる。すなわち、壮/青、士/年だ。

壮士 - Wikipedia

これを、後の、「小僧」と「少年」の比較と比べると、小/少、僧/年
{(壮,小),(青,少)}  ×((士,僧),年)、そうすると、「壮年」を超えると、老人になるのか、どうなのか。なじみはないが「老年」という言葉は在る。

幕末の儒者麗谷宕陰 (1809-1876)の「遊墨水記」から

大率青年妙齢,前途萬里,皆邦家之英也.

P.3(59),「青年」ということばの由来をめぐって

赤字強調は引用者。明治9年の「マンスフヰルド氏米国教育論抄」(「教師の栄誉」から,「教育雑誌」第18号,四屋純三郎訳,明治 9年10月発行)

 人世何等ノ事業カ教師ノ職務ヨリ偉ナルモノ
 アランヤ其永久二伝フベキ之ヲフヰヂアス及アン
 ゲロノ如キ技術家ノ成績二比センカ彼等ハ無生寒
 冷ニシテ必腐朽スベキ大理石ヨリ之ヲ造成シ教師
 ハ即平常新鮮永世不朽ノ人心ヲ誘導シ殊二青年
 生カヲ以テ気豚活然タル精神ヲ淘錆ス
 四屋,  1876,4-5

同前

”youth”の訳語らしい。

それ以上に着目したいのは、「明治11年に制定された杉山青年報徳学社規則の緒言」(前掲P.5;「明治9年12月には庵原郡杉山村に杉山青年報徳学舎が創設」とある。)であって、この「報徳」が、あの一木喜德郞の「報徳」であるのは言うまでもない。明治の近代化を牽引したあの近世思想である。
近世から近代の架け橋となったのは、対象と社会を繋ぐ時間概念だったというのは興味深い。

 「(前略)青年輩ハ農家ノ種苗ノ如シ,苗木ノ時,  良農能ク手ヲ尽シ,曲レルヲ直シ,培養ヲ施スト.  キハ,成木ノ後良実ヲ得ル必セリ,若シ惰農ニシ  テ,蒔付ノ侭手入ヲ怠リ,捨作リニスルトキハ我  侭二育チ,成長ノ後良結果ヲ得ルノ理ナキカ故二,  青年輩ノ教育ヲ怠ルトキハ,我侭増長シテ,終二  父兄ノ教訓モ聞キ入レス,各家破産二至ルトキハ,  本会良法タリト難トモ,為メニ廃滅ノ不幸ヲ見ル  モ知ノレヘカラス(以下略)」(静岡県立教育研修所,  1972,480)

しかし、これは「青年」なのか、「青年輩」なのか。

どちらも「ねんぱい」と読みますが、それぞれの漢字に違いがあります。「年輩」は和語で、「年輩」は漢語だと言われています。「年輩」の語源は中国由来だとされており、「輩」という漢字は「やから」や「はい」、「ともがら」と読みます。意味は「同類のもの、なかま」です。

年配と年輩の違いや使い方例文10選!意味は?あやふや/中年/年頃|chokotty

つまり、「輩」が抜け落ちた経緯がある。
ここらへんは、文部省が推し進めた近代教育としての、「時計」に代表される「時間教育」の抽象性を思い出して興味深い。恩賜の金時計の時代だ。恩賜の金時計は主にシンボルであって実用ではない。「刻」から「時」に普遍化された。

世界的なオカルトブームに載った「大正生命主義」を経て、「太陽主義」と「日本主義」を生むからだ。
太陽主義は、ハイカルチャー石原慎太郎サブカルチャー梶原一騎によって、「不良」に行きついたと思う。当時、最も「格好良かった」のは、世界のチェ・ゲバラと日本の安藤昇だったのではなかったか?学生運動の挫折は、(内実はともかく)安藤組解散とオーバーラップして語られる。どれだけ「エエ格好」しようが、学生運動は「半グレ」である。

それはともかく、

農業往来 初編 (巻菱潭,椀屋喜兵衛)| 国立国会図書館デジタルコレクション

「青年」で検索すると、巻 菱湖(まき りょうこ、安永6年(1777年) - 天保14年4月7日(1843年5月6日))のこの著書が出てくる。
「青年に」という文言がここに在るはずで、まことに素晴らしい字であるが、変体仮名なので難しい。わからないが、挑戦してみた。

はくじゅくでん日向ひなた廣狭ちょうたんこうおつへんせいすゐかんがへてすゐかんそんあてにていけためぬまほりみぞまたかはすじつゝみきづひょうじゃかごを(・け?)

わからない箇所がところどころあるが※、「青年」はなさそうである。
※一応、当ててある字についても、「蔭」は俗字、「損」は簡略体じゃないかな?と思う。

なんだよ。

 

農業往来 / 菱潭 書|早稲田大学図書館

こちらの方が読みやすい。

 

はくじゅくでん日向ひなたくわうけふちょうたんこうおつへんせいすゐかんがへてすゐかんそんあていけためぬまほりみぞまたかはすじつゝみきづひょうじゃかご

そうか。戈に下に何かくっついている字があったな、と思ったけれど、見失ってしまった。「せ」だったんだね。「」の字は知らなかった。

https://cid.ninjal.ac.jp/kana/list/

自分の力ではもうちょっとサンプルが要る。
「広狭」はおそらく「コウキョウ」だろうけれど、「廣」は「」かな?と思う。
自信がない。
長引くので、とりあえず、これで置く。


知っている人からしたら「全然違う」と言われそうだ。
恥ずかしいけれど、気にしない。